東京機械案件には関心を持っていて、アジア開発キャピタルが招集請求した臨時総会にも出席しました。総会は異例なもので、双方を代表する弁護士同士の対決の様相でした。本来、株主総会は株主と経営者の対話の場だと思いますが、とてもそのようなものではありませんでした。本邦初のMOM(Majority of Minority)決議が行われ、結果買収防衛策が可決承認されました。アジア開発側はMOM決議の差止請求を行っていましたが、結局司法判断は差止を認めませんでした。その後アジア開発は保有株を東京機械の取引先である新聞社へ売却して案件は終了しました。
買収防衛策は買収者が行使できない差別的な新株予約権の発行によって行われます。本来会社法では予約権の発行は取締役会決議によって行われますが、取得者に特別に有利な場合は株主総会での特別決議が必要です。また、著しく不公正な場合は差止請求できると規定されています。つまり、ほとんどの買収防衛策は不公正なものではなく、法的には株主総会でボランタリーに決議されているということです。なので、普通決議だろうが、MOMだろうが、お構いなしということになります。しかし、裁判所は2005年に経産省と司法省が公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」に則して判断していると思われ、これまでの防衛策に関する司法判断では、「総会で株主の承認を得られたものは認める」ということが大原則になっているように思います。ただ、MOMによって可決されたものが株主による承認と言えるのかははなはだ疑問です。
東京機械のケースでは、司法判断の重要な要素として、「急速な買付」が指摘されています。既存株主に判断の猶予を与えずに強圧性があり、非常に特別な例だとされています。たしかに最初にアジア開発が8.08%の大量保有報告書を初めて提出した段階で既に実際には26%超を保有していました。ただ、MOM決議を安易に認めてしまうと、経営者が都合の悪い株主を排除することが可能になってしまいます。経営者が防衛策を導入して、利益相反があるからと特定株主を除いて決議をしてしまうことができてしまいます。しかし、決議に参加する株主にも取引先がいたり取引金融機関がいたりして、完全に利益相反がないとは言えません。そもそも、買収者以外の株主は自分たちの議決権が増加する可能性があるのですから、どうしても防衛策への賛成バイアスがかかってしまいます。MOM決議は法曹関係者の間でも乱用への危惧が指摘されています。私は1単位1議決権の原則を貫くべきだと感じています。