セミナー

2025年株主提案(2025年7月末まで)

・2025年6月総会の結果が出揃いましたので、今年の7月末現在結果をまとめました。

・2025年は7月末までで株主提案件数は142件(株主提案を行った株主数)で昨年年間の115件を既に超えました。

・うちアクティビストによる提案が63件で44%を占めています。

・今年は個人株主による提案が36件と昨年の22件から増加し、市民団体による提案が18件とこれも昨年の8件から増加しています。原発反対を訴えた電力会社に対しての提案が中心でした。

・個人株主からは真面目なものとは思えない社名変更の提案もなされていますが、昨年の株主提案に対しての差別的取り扱いの是正を求めるNTTへの提案もありました(これは私も同感です)。

・さて結果ですが、株主提案で可決は9件(議案数ではありません)に上り昨年の3件を既に超えております。また、40%以上の賛成票を集めたものも12件に及びました(昨年年間で15件)。

・ここでは注目すべき可決事例をご紹介してまいります。

株主提案を行った株主属性別統計

アクティビストによる株主提案統計

可決事例① AGP

・主要空港で停機中の飛行機へ電力や空調を提供する同社筆頭株主の日本航空が行った株式併合の株主提案です。やはり大株主のANAと日本空港ビルデングとの共同提案で、合計75%を保有していますので、2/3の特別決議も可決確実という内容でした。

・背景は、AGPが上場会社として、最大手顧客である大株主と少数株主との利益相反を意識せざるを得ない中、大株主の不満が爆発した結果のように見えました。

・会社側は社会に訴える作戦を開始し、ついには対抗TOBをも引出し徹底抗戦しました。また会社提案として、株主提案である株式併合、取締役選任を無効にする議案をMOM決議(大株主に議決権がない議案)として提出しました。

・ただ、結果は剰余金配当と補欠監査役選任議案、日本航空とANA出身の取締役選任の会社提案議案が可決したものの、残りの通常議案はすべて否決。株主提案は可決となりました(賛成率79.87%~79.89%)。

・株主提案を無効にするMOM決議は94.24%、94.71%で可決しました。少数株主のほとんどが会社に味方したことがわかります。しかし、法的拘束力がないデモンストレーション的提案であり、総会後に株主提案で可決した取締役の就任が発表されました。

・私自身は、AGPの言い分に一理あると思っています。そもそもAGPのような全航空会社に対するサービスを提供する空港のインフラ提供会社が一部の顧客である航空会社にコントロールされるというのは望ましいとは思いません。日本空港ビルデングが子会社化するのなら、これほどの抵抗はなかったのではと思っています。

可決事例② ③東京コスモス電機

・可変抵抗器メーカーの同社株式を25%を保有するシンガポール拠点のアクティビストであるスイスアジア・フィナンシャル・サービシズが5名の取締役選任議案を、15%を保有する東京都江戸川区拠点の成成が3名の取締役選任議案をそれぞれ株主提案として提出しました。取締役会は反対。

・スイスアジア社は2023年頃からアクティビストとして日本市場で活動し、現在5社で大量保有報告書が提出されています。

・成成はおそらく中国資本であり、2011年に東証上場のイクヨ株式を購入し代表取締役を送り込んでいる日東との関係もあると思われます。

・両社による提案に対してそれぞれが賛成したものと考えられ、51.97%~52.29%とぎりぎりではありましたが、両議案とも可決しました。なお、剰余金配当以外の会社提案はすべて否決となり、現経営陣は監査等委員以外総退陣となりました。

・総会後の取締役会で役員報酬を受け取らないとしているスイスアジアの投資責任者である門田泰人氏が社長に、Jフロントリテイリングの取締役の若林氏が副社長COOに就任しました。成成からは李氏が社外の会長に就任しました。

・アクティビストが電子部品メーカーを経営できるのかとの報道がなされています。

可決事例④ イーロジット

・EC事業者向け物流代行の同社会長職を追われた創業者が行った取締役選任の株主提案です。

・元々31%を保有していた創業者の角井亮一氏は2023年に社長職を譲り会長となっていました。

・2024年に業績不振に加えて減損があり、債務超過に転落し、豊田HD、GF社向け第三者割当増資で切り抜ける中で9月に角井氏は社長に復帰しました。

・2025年1月にGFから派遣された取締役との問題もあり、角井氏は社長を退任し、その後会長も追われ、ただの取締役となっていました。

・そこに自身の復帰を含めた取締役選任を求める株主提案を実施しました。GF社主導の取締役会は反対。

・結果は株主提案の候補は全員可決し、GF社からの取締役は会長、社長を含み一掃されました。

・角井氏は会長に就任し、伊藤忠出身の池田氏が社長に就任しました。

可決事例⑤⑥ 栄研化学

・臨床検査薬大手の同社株をアクティビストのダルトンとニッポンアクティブバリューファンドがあわせて25%、アセットバリューインベスターズ(”AVI”)が5%を保有していましたが、前者が6名の取締役選任を求めて、後者が自社株買いと配当決定を総会でも議決できるようにと株主提案を実施しました。

・その後会社側はダルトン指名の6名中2名を会社提案とすることに合意し、ダルトンは株主提案を取り下げました。AVIの提案には取締役会は反対。

・結果、ダルトン指名の2名は可決。AVIの自社株買い議案は37%で否決されたものの、配当決定を総会でもとの議案は賛成率73%で可決しました。

可決事例⑦ ホギメディカル

・医療用不織布の同社株を26%保有するニッポンアクティブバリューファンドが3名の取締役選任を求めて株主提案を実施しました。取締役会は反対。

・結果、ダルトン創業者のジェームズ・ローゼンワルド氏だけが賛成率52%で可決しました。

可決事例⑧ nms HD

・製造業派遣中堅の同社で不適切な経費使用で辞任した創業社長(現取締役)が自身を含む8名の取締役選任を求めた株主提案。取締役会は反対。

・4月以降株主構成が変わったため、創業者は定時総会を待たずに臨時総会招集を請求し、定時総会で株主提案が否決された場合に備えました。

・結果、5名は賛成率51%で可決し、2名は会社提案と重複であり92%で可決。唯一創業者だけが30%で否決。会社提案は1名だけ提携先推薦候補が可決しましたが、現社長は否決。

・創業者一派と言われている元取締役が社長に就任しました。

可決事例⑨ コンヴァノ

・ネイルサロンを展開する同社株を4.5%保有する退任した執行役員(委任型執行役員だそうです)が事業目的変更と発行可能株数の増加を求めて株主提案を実施しました。

・取締役会はこれを会社提案として付議することを決定。

・結果、賛成率85%で可決しています。

・同社は直後に新株予約権発行による最大60億円の資本調達の発表を行っており、M&A投資を目的としており、かつビットコインへの投資を開始しました。

以上

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