私は1986年のバブル入口に証券会社に入社し、海外にいた8年間を除いてほぼ全期間法人部門で上場会社を顧客としてビジネスを行ってきました。バブル期は企業によるいわゆる財テクのお手伝いが最大のビジネスでしたが、バブル崩壊後はもっぱら資本/資金調達やM&Aアドバイザリーといった投資銀行ビジネスが中心でした。1998年から米国に駐在した際に当初CMBS(商業用不動産担保ローン証券化)や不動産ビジネス部門の一部員に過ぎなかったのですが、ロシア危機後に突如撤退責任者に任命され、本当にのたうち回りながら巨大な不動産関連資産のEXITを行った経験から、不動産業界には特に思い入れが強く、その後長く担当することになりました。私が担当したのは銀行も含めていわゆるバリュー系業界ばかりで、ITとか通信とかにはとんと縁がありませんでした。まさにアクティビストが好む業界ばかりでした。
このような業界ですので、いろいろなことが起こり、在任中に通常の合併/買収はあまた発生しましたし、プロキシーファイト(総会での議決権争奪戦)や敵対的買収の防衛アドバイザーから真逆の敵対的買収アドバイザーまで経験しました。
私にとってコーポレートガバナンスについて考えさせる転機になったのは、JREITを担当することになった時です。現在のJREITの運営はコーポレートガバナンスのお手本だと私は感じています。通常の事業会社と違い、原則法人税は非課税であり、かつ物件投資とそのリターンに時間差がないので、増資をして資本調達をする際には通常、従来の分配金を上昇させるように仕組みされます。無駄な資金は持たず、適切なレバレッジを維持し、JREITの運用者はいかに投資主への分配金を増加させる投資/資本調達を行うかを常に考えています。他社は増資でどれだけ分配金を増加させることができたが当社はどうかということが彼らの最大の関心事となっています(もちろんそれだけではありませんが)。リーマンショックを経験して、JREITの運営はさらに洗練されたと感じています。
翻って、株主利益に関心が薄い事業会社がなんと多いことでしょうか。上場会社の財務データの分析をいつも行っておりますが、総資産の大半が株主資本、ましてや大半が現金という会社もあれば、お決まりの雀の涙のような配当を数十年漫然と継続している会社、ビジネスに無関係な取引先でもない会社の株式が資産の大半なんて会社までありました。
私がよく企業の経営者に申し上げていたことに、その施策や投資はもし株主が一人だったとしても行いますか?ということでした。株主がリスクを負って投資をするのは、非営利法人でなければ、リターンを期待するからです。経営者の選任権を有する株主がもし一人ならば、その一人の株主の意向に沿う形でなければ成り立ちません。資産の大半が現金の会社はその運用益(預金なら現在ほとんどありませんが)を法人税課税後に配当として株主に支払うのでしょうか?受け取った株主はそれにさらに所得課税されます。それなら株主はお金を返してもらって自分自身で預金したり、非課税の運用主体である投資信託に投資した方が良さそうです。
もちろん他のステークホルダーを軽視するつもりはありません。企業が存続していくために従業員や金融機関、取引先が重要であることは言うまでもありません。しかし、企業がビジネスを行うにあたってまず必要なものは資本であり、リスクを取ってそれを供給してくれる株主が存在しないと企業は存続できません。
市場で買った株主は資本を供給したわけではないと感じる人もいるかもしれません。しかし、株式が市場で取引されるからこそ市場価値が定義され、企業の成長のための資本調達ができるわけです。先ほどの資産がほとんど資本のような会社は資本調達や株式を使ったM&Aの必要性はないかもしれません。株主軽視で経営者の好きに経営を続けたいのなら、上場廃止にして未上場会社になることをお勧めしたいです。
そんな中、アクティビストが登場します。アクティビストはかつて非常にダーティな印象を持たれていましたが、その中でいくつかのアクティビストは近年相当洗練されてきたように思います。アクティビストが投資を開始する企業を常に見ていますが、時にはこんな前時代的なことをまだやっている会社があるのかと思い、よく見つけたなと感心することもあります。アクティビストの行動はすべてではありませんが、いくつかの企業では確実に変革の背中を押していると思います。
本ブログのデータは主に大量保有報告書をベースに作成したものです。つまり企業の株式を5%以上保有したケースだけが分析の対象となっています。アクティビストの中には5%未満の保有で株主提案等のアクションを行うケースがありますが、これらのケースは情報が不足しているため対象とはしておりません。
本ブログのデータや資料は私が顧問契約しているある企業での数回にわたる勉強会で使用した資料をさらに深堀りしてまとめたものです。私は毎日企業の適時開示に目を通し、大量保有報告書に目を通しておりますので、時間の許す限り、資料をアップデートしていくつもりです。また、資本市場を観察していて、思うことも”コラムひとり言”としてつぶやいてまいります。
最近有力なアクティビストが投資を開始した企業の株式に個人投資家が殺到するという現象が見られます。多くの個人投資家の関心だと思いましたので、アクティビストの投資行動をフォローするとどうだったのかということも検証しております。
自分自身の関心事とは言え、多大な時間と労力を費やして分析を行っていることから、一部資料やデータを有償で提供しております。多くの方々に購入いただけると私の費やした時間が報われますので、是非よろしくお願いいたします。本ブログが投資家の皆様や企業の方々のご参考になりましたら幸いと存じます。