2019年7月ユニゾHDは突然HISからTOBがかけられて、その後ホワイトナイトによるTOBが始まり、その他の買収者やアクティビストが跋扈し、最終的に従業員による買収(EBO)で決着した案件です。まず背景は、元々旧日本興業銀行系の不動産会社だった同社が、みずほ銀行の元副頭取が社長に就任したところから拡大路線を取り始め、増資を繰り返す中、安定株主比率が大幅に落ち込んでいました。株価は低迷し、不動産の含み益を勘案したPBRで0.23倍と極端に安い状態でした。また、社債も多く発行していましたので、当時は増資や社債のさらなる発行も難しい状態で、加えてみずほ銀行からの追加融資も困難な状態に陥っていました。そんなところにホテル事業での協業を目指すHISからの突然のTOB(3100円)があったわけです。元々HISは市場で5%弱を買い集めており、ユニゾに協業の面談を申し入れていたようですが、ユニゾが相手にしなかったようです。ちなみに前日の株価は1990円でしたので56%のプレミアムでした。その後ユニゾでのホワイトナイト候補者選定で選ばれたフォートレスがHISの価格を上回る価格(4000円)でTOBを始めましたが、市場では、いちごアセットやエリオットがユニゾ株式を猛然と買い始め、株価はどんどん上昇します。結局、HISのTOBは不成立に終わりました。HISのTOB最終日(8月23日)の株価は4335円でしたので、HISだけでなくフォートレスのTOB価格をも上回っていました。9月に入りブラックストーンが5000円でTOB提案を実施したことが明らかになりました。ユニゾの取締役会はこれを受けて、フォートレスによるTOBに出していた賛同意見を留保に切り替えました。その後フォートレスはTOB価格を4100円に引き上げますが、ユニゾ取締役会はなんとローンスターからサポートを受け従業員が設立した会社によるTOBを12月に発表し(5100円)、フォートレスによるTOBに反対表明をしました。その後はフォートレスがTOB価格を5200円に引き上げ、ブラックストーンが5600円、6000円と提案価格を引き上げる中、6000円まで引き上げた従業員によるEBO(Employee Buy-Out)が2020年4月に成立しました。なお、いちごアセットとエリオットはEBOに応募し、巨額の利益を上げるに至りました。
さてその後、事実上大きな負債を抱えたユニゾはローンスターからの資金を返済するために猛然と保有不動産を売却していきます。1年もたたないうちにローンスターからの優先株、債務の合計2000億円超を返済しています。そして、2023年4月社債償還資金が調達できず、民事再生法を申請しました。いろいろな憶測が言われていて、もちろんスポンサーによる投資金額にもよりますが、私は地銀を中心とした融資団の多くは担保で守られているため、ほぼ全額が保全可能だと考えておりますし、社債の投資家も相当部分が回収可能だと考えております。当民事再生法申請の主旨は役割が終わったEBOの会社(SPC)を消す作業だと感じております。
当案件での教訓は、不動産会社の収益不動産は鑑定評価で売却可能だということを実践して見せたことです。同社は4000億円もの不動産を売却しましたが、ほぼ鑑定評価で売却できたということです。これは多くの不動産会社が実質PBRで大きく低迷している中、特に大手不動産は安定株主比率も低いため、いつでもユニゾに起こったことが起こり得るということを物語っています。