4月25日に筆頭株主の日本航空がANA、日本空港ビルデングと共同で、AGPに対して株式併合による非公開化の株主提案を実施しました。
上場会社に対して大株主が共同でいきなり株式併合の提案を行うとは極めて異例です。
同時に取締役選任の提案も行っており、つまるところ現在の取締役は全員首ということです。
3社合算で75.7%の議決権を保有しており、普通に考えると特別決議は可決のところですが、会社側は対決姿勢を示しています。
株式併合の提案

併合後の株主構成

AGP株価

AGP株価は日本航空提案の買取価格に張り付きました。
AGP(9377)とはどんな会社でしょうか?
AGPは国内の主要10空港で駐機中の航空機に電源や空調を提供する動力供給事業を行っています。
また、空港の様々な各種設備機器のメンテナンスも行っています。
興味深いことは、航空機への電源や空調の供給の顧客が航空会社であることは当然ですが、設備機器メンテナンスの直接の顧客も空港管理会社があるものの、多くは航空会社であることです。


AGP (9377) の業績
コロナ禍で動力供給事業は大きな痛手を負いましたが、エンジニアリング事業(メンテナンス)はおそらく長期契約となっているため、大きな影響を受けていません。
商品販売事業は、機内食保冷/保温カートの製作、販売とあり、病院や介護施設、ホテルに納入しているらしいですが、そんなことやっているの?という印象。電力の販売もやっているらしいです


AGPの歴代社長と株主構成及び取締役の構成
元々はJALが60%の株主で親会社でしたが、三菱商事に一部株式を売却し、持分法適用会社となっていました。
一時の例外を除いてJALが社長を送り込んできましたが、2024年に初めてプロパーの社長が就任していました。

経緯
大株主が3社いましたので、上場維持基準の流通株式比率が当然問題となっていました。
2024年にJALは社長を送り込もうとしたようですが、指名委員会に拒否されて初めてプロパーの社長が就任することになったようです。
ただ、業績連動報酬は大株主の反対で否決。業績を上げようと思ったら、値上げしないといけないからでしょうか?
上場会社の体裁を作ろうとすると、役員構成も変わらざるを得ず、徐々に大株主の意向を反映することが難しくなっていきました。

空港インフラ関係業務の上場企業

【空港施設での役員人事トラブル】
2023年空港施設の株主総会でJAL出身の乗田俊明社長の取締役再任がJALとANAの反対によって否決され、新社長にプロパーの田村滋朗氏が就任しました。
元々2021年に国交省OBの甲斐正彰社長がパワハラ問題で退任し、副社長だったANA出身の稲田健也氏が会長へ、乗田氏が社長へ就任し、国交省OBの山口勝弘氏が副社長に就任していました。
2022年末に国交省OBで東京メトロ会長の本田勝氏が空港施設を訪問し、山口氏を社長にするように稲田、乗田氏に要望したことが報道され、本田氏は東京メトロを退任、山口氏も副社長を辞任していました。
会社側提案が結果的にJAL出身2名、ANAが1名、国交省ゼロ、社外が過半数だったことでJALとANAのバランスが崩れることを嫌ったためと報道されています。
【日本空港ビルディングのトラブル】
2025年5月に子会社が政治家の長男が経営する会社に利益供与したとして、会長、社長が退任し、プロパーの常務が社長就任しています。
私見
そもそも航空機への動力供給業務や設備機器のメンテナンスは空港インフラと言えるでしょう。
多くの航空会社に対してサービスを提供する空港インフラは、航空会社の持ち物というよりも、空港会社の持ち物の方が相応しく、空港インフラ業務の会社をある特定の航空会社が保有することには違和感があります。
AGPは動力供給やメンテナンスでJALやANAを含む航空会社に対して値上げ交渉を行っていたようですが、顕著な進展はなかったようです。
空港インフラ企業としては、日本空港ビルデングこそ5%以下の出資ですが、AGPや空港施設へはJALもANAも相応な出資を行っており、役員人事にまつわるトラブルが過去に起きています。
既上場会社にいきなりの株式併合の株主提案は違和感があり、66.7%以上保有しているとしても、一旦TOBで少数株主から買い取った後に株式併合に進むということがより適切に感じます。
ただ、上場企業の最有力顧客が大株主という立付けには無理があり、事業の性格から考えるとJALやANAといった航空会社ではなく空港インフラの提供者である日本空港ビルデングが子会社化する方が感覚的にはしっくりくるように感じます。
非公開化すると利益相反がなくなるとJALは主張していますが、その他の顧客との利益相反はあるので、完全解消ということでは日本空港ビルデングが子会社化するのが良いのでは?
大株主3社で2/3以上を押さえている訳ですから、特別決議は可決しそうですが、空港インフラとしては潜在的な利益相反もあり、場合によっては国交省がなんらかの指導を行うかもしれないと思っています。
以上